こんにちは。ぽけぽけです。
以前に公開したBlog記事「サブスクどう使う?どれを選ぶ?ジェジュンファン的使い方。 」が、ありがたい事に1年以上経過した今でも比較的多くの方に読んでいただいています。
同記事では、ストリーミングサービスの大手3社(Apple Music, Amazon Music, Spotify)を比較し、ジェジュンの楽曲の取扱数の点からApple Musicをお薦めさせていただいていました。
記事の公開から1年以上が経過し、そろそろ情報をアップデートしたいなと思っていた折、とあるジェジュンのファンの方から「Spotifyを聞いてもアーティストへの応援にはならないの?」というやや直球(?)な質問を受けました。
その質問の背景には、音楽ブログやSNS(ジェジュンファンか否かを問わず)で以前からしばしば取り上げられる、Spotifyからアーティストへの収益分配率が他社よりも低いという通説があります。
皆さんはいかが思われますか?私はこの通説を踏まえてもなお、Spotifyの利用には決して軽視できないメリットがあると考えています。
それはSpotifyのプラットフォームとしての強みと、Sony Musicとの関わりの2点です。
以下で詳細を書いていきますが、誤解のないように先にお伝えしておくと、私はあえてSpotifyだけを特別に推奨したいわけではありません。
各社のサービスには、アーティストの応援という点ひとつをとってもそれぞれ異なるメリットがあり、それを前提にSpotifyに関して私が持っている視点を共有するのが趣旨です。
アーティストへ収益分配の単価
一般的にアーティストはプラットフォーム(Apple Music, Amazon Music, Spotifyなど)に楽曲を提供すると、ユーザーが楽曲を再生した回数に応じて、プラットフォーム側から収益を受け取ります。
この再生1回あたりの単価は、各プラットフォームとも原則的に公開していません。同じプラットフォームでも、国や地域、再生時間帯、そして権利者のロイヤリティ率など様々な条件によって単価が異なるため、第三者が正確に把握するのは困難です。
そこで音楽クリエイターや業界関係者が、自らの楽曲の再生回数と受け取った収益から大体の単価を推定し、それを音楽ブログや業界誌で紹介したことから、各プラットフォームの単価の違いが通説として広まりました。
Spotifyはその中で比較的単価がかなり低いとされています。当記事では、正確な単価を把握することが困難であることを踏まえて詳細な数字は挙げませんが、Spotifyは大手他社のだいたい2分の1程度と言われています。
この調査結果がしばしばSNSで引用され“Spotifyはアーティストへの収益還元率が低い”という説の根拠となっています。
私はSpotifyの収益分配単価が低いことに対して異を唱えるつもりはありませんが、それにも関わらず世界中のアーティストがSpotifyに楽曲を提供し続ける理由には目を向ける必要があると考えています。
ストリーミングサービスの台頭とユーザー数の急増
Spotifyはスウェーデンの企業で、2008年にヨーロッパでサービスを開始しました。ほぼ同時期にサービスを開始したのがAmazon Musicで、この2社が業界では先駆者的な位置付けにあります。
SpotifyやAmazon Musicはサービス開始当初から人気を得ていましたが、当時の音楽販売のメインストリームはまだダウンロード配信でした。
ストリーミングサービス(通称サブスク)が世界の音楽販売の主役となったのは、2016年、アメリカでストリーミングの売上がダウンロード配信の売上を超えた頃からです。
時期を前後して、2015年にApple Music、Youtube Music、LINE MUSICがサービスを開始、2016年にSpotifyが日本に進出しました。時代の潮目が変わったこの頃、Spotifyのアクティブユーザー数は4000万人で世界のトップでした。
Spotifyはその後も驚異的なスピードでアクティブユーザー数を増やし、2018年に2億人、2020年に3.5億人、2022年には4.9億人を突破しました(ソース:Spotify Shareholder Deck)。
競合他社はSpotifyのように毎年ユーザー数を公表していませんが、2019年にはApple Musicが6000万人、Amazon Musicが5500万人に達したことを発表しています。
以上は世界市場規模でのお話ですが、日本市場にも目を向けてみましょう。2021年にSpotifyが発表した日本のアクティブユーザー数は960万人。2020年のLINE MUSICのユーザー数は160万人でした(ソース:東洋経済オンライン)。
Spotifyの揺らがぬ優位
Spotifyの他社と比較した強みは、ここまでの説明で既にお分かりだと思いますが、何と言っても圧倒的なユーザー数です。
ストリーミングサービスに共通する特徴として、楽曲があるユーザーのお気に入りやプレイリストに登録されると再生回数が増え、他のユーザーにもフォローやおすすめを通じて配信されやすくなります。
こうした仕組みを活用して楽曲のファンを増やすには、ユーザー数の多いプラットフォームによりスケールメリットがあるというわけです。
すなわちSpotifyの持つ優れたポイントはユーザーの絶対数と世界市場におけるシェア、そして伸び続けるユーザー数が示す成長性。
これらの要素が、アーティストがファンの獲得や収益の向上を目指す上でいかに重要かはあえて説明の必要もないでしょう。
一方で収益分配単価が低い点はデメリットといえますが、それと比較してもユーザー数の多さは強力なメリットとして十分に検討に値するのではないでしょうか。
ソニーミュージックとの密接な関係
ここまでは一般的なアーティストについて言えるお話をしてきましたが、ジェジュンファンとしては、Spotifyとソニーミュージックの関係に触れないわけにはいきません。
Spotifyもソニーも上場企業ですから、ビジネスの状況を詳細に公開していて、多くの情報を入手することができます。
ソニーミュージックについておさらいすると、世界三大音楽レーベルとして知られるソニーミュージック(米国)と、ジェジュンの日本の楽曲の流通販売を担っているソニーミュージック(日本)は企業としては別ですが、どちらも日本のソニーグループの傘下です。
ソニーミュージック(米国)の楽曲をSpotifyで配信するという通常の取引関係は、Spotifyの初期からありました。2011年には両社の契約内容がマスコミに漏れていたほどです。
資金調達とライセンス契約
Spotifyはビジネス拡大の過程で何度か資金調達を実施し、当時ストリーミングサービスの将来性に着目していた大手音楽レーベルはSpotifyに出資しました。
ソニーミュージック(米国)は2015年の時点で既にSpotifyの株主だったことが知られています(ソース:ファイナンシャルタイムズ)。
ストリーミングサービスがダウンロード配信にとって代わる存在に成長し、Spotifyが欧米以外にもユーザーを増やしていた2017年、三大音楽レーベルのソニーミュージック(米国)、Universal Music、Warner Musicは、Spotifyと個別にグローバルライセンス契約を締結しました(ソース:Fortune)。
このグローバルライセンス契約は、音楽レーベルがSpotifyと直接結ぶ従来のライセンス契約とは異なり、ソニーやUniversalやWarnerが数百ある音楽レーベルとSpotifyの間に入って、代わりにライセンスを結ぶものです。ソニーミュージック(米国)は現在もこのグローバルライセンス契約を継続しています(ソース:Spotify Financial Statements)。
このようにSpotifyと大手音楽レーベルは、資金面でもライセンス面でも協力することで、複雑な権利処理の障壁を乗り越えてグローバルなプラットフォームを実現してきました。
そして2018年にSpotifyがついに上場を果たすと、株主であるソニーミュージック(米国)は巨額の利益を得るのですが、ここからが重要なポイントです。
アーティストとレーベルへの利益還元
2018年4月、Spotifyの上場初日の時価総額は約2兆8200億円と発表されました。そのうちソニーミュージックの保有割合は約5.7%で、約1600億円に上りました。
まもなくしてソニーは保有していたSpotifyの株式の約半数を売却し、売却によって得た利益をアーティストとレーベルへ分配することを発表しました(ソース:ソニー決算短信)。分配額は非公表です。
ところで、売却によって得た利益は本来株主のものであり、法的には第三者であるアーティストやレーベルに分配する義務はありません。
にも関わらずソニーミュージックがアーティストやレーベルに利益を還元するのはなぜか。
ビルボードが公開した、ソニーミュージックからレーベルに宛てて送られたメールを読むと、ソニーミュージックの意図が見えてきます。
(原文一部抜粋)
Since April 3rd, SME has sold a portion of the Spotify equity we owned. Therefore we will share and pay such proceeds (“Spotify Net Proceeds”) with eligible artists and participants as soon as possible, targeting to make payments before the end of August.
Sharing will be equally based upon each eligible artist’s or participant’s percentage of SME’s overall revenue and each eligible artist’s and participant’s SME Spotify revenue during the period when the equity was held by SME.
Given the unprecedented value realized from this equity, payments will be made without recovery of outstanding advances and recording costs, or other recoupable sums (i.e., without regard to recoupment) and regardless of whether specifically required by contract.
We hope that this is perceived as a gesture of goodwill to our music creators.
(日本語訳)
4月3日以降、ソニーミュージックは保有していたSpotify株式の一部を売却しました。そこで弊社は、8月末までを目標として出来るだけ早期に、対象のアーティストと関係者にその利益(”Spotify純利益”)を分配しお支払いします。
分配額は、ソニーミュージックが当該株式を保有していた期間のソニーミュージックの売上における各アーティストおよび関係者の割合と、各アーティストおよび関係者のSpotify売上から決定されます。
Spotify株式が実現した空前の価値を受け、弊社からのお支払いは、契約上義務づけられているかどうかに関わらず、また前払金や制作費などの(ソニーがアーティストから回収予定の)債権との精算は抜きにして行われます。
弊社はこれを音楽クリエイターの方々への親善のしるしと受け止めてくださることを期待しています。
Sony Music Entertainment to Start Paying Indie Artists & Labels Spotify Sale Proceeds as Early as August | Billboard – Billboard
最後の一文が表すように、ソニーミュージックにはアーティストやクリエイターへの敬意を示す意図があることが分かります。
ストリーミングサービスへのアーティストの抵抗
振り返ってみれば、ストリーミングサービスが音楽業界を急速なスピードで塗り替えていく中で、アーティストやクリエイターから反対の声が上がることはしばしばありました。
例えばテイラー・スウィフトは2014年、プラットフォーム側からアーティストへの収益配分に疑念を示し、自身の作品を全てSpotifyから引き揚げたことがあります。
音楽の変化はとても速く、音楽業界そのものの景色もあまりにも早く変化していて、全ての新しいこと、例えばSpotifyは私にはちょっと巨大な実験のように思えます。
(中略)そして私は人生をかける仕事を、その音楽の作詞家、プロデューサー、アーティスト、クリエイターたちがフェアな報酬を受けられないような実験に捧げたくはありません。(テイラー・スウィフト)
Taylor Swift explains why she pulled her music from Spotify – CBS News
日本ではつい昨年、山下達郎が自身の楽曲をサブスクで解禁しないことを明言したインタビューが話題を呼びました。
表現に携わっていない人間が自由に曲をばらまいて、そのもうけを取ってるんだもの。それはマーケットとしての勝利で、音楽的な勝利と関係ない。本来、音楽はそういうことを考えないで作らなきゃいけないのに。(山下達郎)
Yahoo!ニュース 2022年
もちろんテイラー・スウィフトや山下達郎がアーティスト全体を代弁しているわけではありません。彼らの発言に対しては説得力のある反論も上がっています。
例えばテイラー・スウィフトに関しては、プラットフォーム側が合意に基づく正当な収益を払っているのにアーティストへの収益配分が小さいのは、中間にいるレーベルの取り分が大きいからだという見方。
また山下達郎に対しては、ストリーミングサービスは商業目的のバラマキという点ではテレビやラジオと本質的に変わらず、むしろ違法コピーを防げるという見方。
それでもテイラー・スウィフトや山下達郎の本質をついたコメントは、アーティストやクリエイターを中心に根強く存在する、商業主義への反発を象徴しているようです。
このような音楽業界ならではの価値観を踏まえて、ソニーミュージックは商業的な合理性よりもアーティストやレーベルの尊重を優先させ、Spotify株式から得た利益を還元したといえるでしょう。
Warner MusicとUniversal MusicもSpotifyの上場時点で株式を保有していましたが、ソニーに続き、アーティストとレーベルへの売却益の分配を発表しました。
大手音楽レーベルが、CDと比べて必ずしも収益性が高くはならないストリーミングサービスと共に歩むためには、アーティストやクリエイターとの信頼関係の維持は今後も課題になってきそうです。
今後も続く利益還元
ところでソニーミュージックは保有していたSpotify株式の約半分を売却しましたが、残りの半分は2023年時点でまだ保有しており、今後売却して利益が出たらアーティストとレーベルに還元することを継続して表明しています(ソース:ソニー有価証券報告書)。
ここでようやくジェジュンに話が戻ってくるのですが、次回ソニーミュージックがSpotify株式を売却して利益が出たら、ジェジュンにも還元されるのでは?と私は考えています。
もちろん断言はできませんが、ジェジュンの日本の楽曲は、ソニーミュージックのグローバルライセンスを通じてSpotifyに配信されている可能性が高いですから。
Spotifyのビジネスがさらに成長して株価が上昇したら、今度はいくらの売却益が出るのか?その時ジェジュンの楽曲の再生回数は?
それこそ極めて商業的な発想ではありますが、そんな夢のあるプラットフォームでジェジュンの楽曲を回すのも良いかもしれません。
まとめると、Spotifyは業界一のプラットフォームで存在感があり、最大のユーザー数で人気の指標にもなるし、通常収入以外にソニーミュージックから株式売却益もあるし、結構いいことも多いよという記事でした。
それでは!
ぽけぽけ
ありがとうございました
ある方にSpotifyに関することを尋ねたところSpotifyが誤解されても私たちは困らないと無責任な言葉がリプの文の中にありました
色んな人がいますね
基本 サブスクに何を選ぶかは個人の自由だと思っています
個々に事情もある
アーティストに入る利益もある意味考慮する必要もあるのかも知れませんがそれよりも再生回数の実績の方がアーティストの価値を上げる上では重要なのではないかと思います
前出のアーティストへの還元率が低い=そこをサブスクとして選ぶのはファンとしてどうなのかと言うような偏った考えを持つ人にこの記事の内容が伝わればいいなと思います
知らないことがたくさんありました 教えて頂きありがとうございました
ありがとうございますっ
読めてうれしい記事でした。
Spotifyに対してのジェジュンファンの一部の人の悲観的な帰属ツイにどーなのかなあそこのところって思ってたから
ぽけさんからの冷静かつ平等な見方で知ることが出来てほんとによかった。