はじめに
今日のメディアで、ジェジュンはしばしば“アジアのスター”とか“K-POPのレジェンド”などという言葉で語られます。
彼の名声は東方神起時代に築かれました。そう言い切るのはあくまで歴史的な意味においてです。
韓国の大衆音楽史や日韓の文化交流史に関する文献をみれば、東方神起の名前は必ずと言っていいほど登場します。
識者が共通して挙げる東方神起の功績は、日本の音楽市場での成功によりK-POP全体の日本進出を促したということ。
それは2008年~2009年という短い間に成し遂げられました。2008年のオリコンチャート1位、MIROTICのヒット、紅白初出場、2009年の東京ドーム公演など。
もはや過ぎ去った時代の一コマとなっているこれらの出来事は、ジェジュンにとって、または5人にとって、どんな意味があったのか。
彼らはデビュー以来韓国であろうと日本であろうと、ずっと頂点を目指し続けてきました。
オリコンのデイリーチャート1位で抱き合って小躍りするほど喜び、次はウィークリー1位をとりたいと語っていた5人。
『MIROTIC』の記録的なヒットを授賞式で祝福されたときに彼らが涙した理由は、5人時代をある程度追っている方ならもちろんお分かりですね。
「日本活動のために2年間も国内活動から離れていたので、復帰するのに不安やプレッシャーを感じていた」「韓国は流行の変化が早く、アーティストが人気を保ち続けるのが難しい」等々。
では、なぜ1位をとることがそこまで大事なのでしょう?活動のブランクはアーティストにどのような心理的影響をもたらすのでしょうか?
日本では、ランキングや賞レースの結果はアーティストの音楽的評価とは別軸で捉えられる傾向にあります。
それゆえ日本のアーティストたちは、ことさらに1位にこだわるような言動はあまりしませんよね。
一方、JYJが訴訟によって韓国の音楽番組から締め出されたことは、ジェジュンたち3人の心に大きな打撃を与えたとみられています。
いくら“地下”でCDが売れても(1位に値する売上数だったにも関わらず)栄誉を受けることができない、普通では有り得ない状況は、彼らのその後のキャリア形成に大きな影響を与えました。
すでに訴訟から長い月日が経過しました。
ジュンスはつい先日、ファンの前で「昔は1位をとることを目指していたけれど、今は健康で一日でも長く歌手活動をしたい」と語っています。おそらくジェジュンも似た心境ではないかと思います。
韓国のアーティストにとって音楽番組に出るとは、1位をとるとはどういうことなのか。
ジェジュンが東方神起として得た名声と、その後のJYJやソロでの歩みを理解しようとするときに浮上する、基本的でありながら深い問いを今回は考察したいと思います。
“考察”と書いたのは学んでいる途上だからです。この記事は決してファイナルアンサーではありません。
私なりに色々と自由に調べながらジェジュンを理解しようと試みる、その過程をつづっていきますので、読者の方には気楽な目線でお読みいただけたらと思います。
音楽番組とは
K-POPの盛り上がりの中心であり、アーティストの主戦場でもあるテレビの音楽番組。
韓国のアーティストがよく言う“1位”とは、音楽番組で行われる人気ランキングで1位をとることを指します。
有名な音楽番組は以下の通り。
放送局 | 番組名 | 曜日 |
KBS(地上波) | ミュージックバンク | 金曜日 |
MBC(地上波) | ショー!音楽中心 | 土曜日 |
SBS(地上波) | 人気歌謡 | 日曜日 |
Mnet(ケーブルテレビ) | M Countdown | 木曜日 |
※上記とは別の放送局や、複数の音楽番組を持っている放送局もあります。
アーティストは新作(アルバムなど)を発表すると、すぐに音楽番組に出演して回ります(通称“カムバック”)。
音楽番組は多数あるので、カムバックするとまずは一週間、ほぼ毎日どこかの音楽番組に出ることになります。
番組の進行
音楽番組のスタンダードな流れを見てみましょう。
まず、何組かのアーティストがテレビ局のスタジオ(ステージ)で順番にパフォーマンスをします。
パフォーマンスの合間には出演アーティストの簡単なインタビュー(コメント)が挟まれます。
最後に1位が発表され、1位になったアーティストはお礼の挨拶とアンコールステージをする時間が与えられます。
そしてお祝いムードでアンコールステージを映しながら番組が終了。
※番組によって内容は多少違いがあり、また同じ番組でも時期によっては1位発表をしない場合もあります。
こちらの動画は東方神起が『MIROTIC』のカムバックで出演したMBC「ショー!音楽中心」。
ちなみにカムバックという言葉は、狭義ではアルバム発売時の最初の音楽番組出演のことを指し、“初放送”とも呼ばれます。
広い意味では、アルバム発売時に連日音楽番組に出演して回る活動のこと。現在ではこちらの広い意味の方が多く使われているような気がします。
言葉の由来をたどると、昔(東方神起よりもずっと前の時代)のアーティストは、アルバムを発表するとまずは音楽番組に出て、次に公演活動をした後は、休養と次作アルバムの制作のために一定期間メディアに出なくなるというサイクルが一般的でした。
そのため最初にアルバムを出すときをデビュー、二作目以降をカムバックという呼び方が定着しました。以上余談。
1位の決定方式
音楽番組はカムバックするアーティストたちが1位を目指して集結する競技場ともいえる存在です。
番組によって異なる1位の決定方式を見てみましょう。
※スマホで見づらい方は画面をヨコにして見てください。
番組 | 点数配分(2000年代) | 点数配分(2020年代) |
KBS「ミュージックバンク」 | デジタル音源(60%) アルバム販売(10%) 放送回数(20%) 視聴者選好度(10%) | 音源配信(65%) アルバム販売(5%) 放送回数(20%) 視聴者選好度(10%) |
MBC「ショー!音楽中心」 | 視聴者選好度(40%) アルバム販売(20%) 音源販売(20%) 放送回数(20%) | 音源配信(50%) アルバム販売(10%) MV再生回数(10%) 視聴者委員会投票(15%) オンライン投票(15%) |
SBS「人気歌謡」 | 調査(20%) アルバム販売(20%) 音源販売(30%) 放送回数(20%) オンライン投票(10%) | 音源配信(55%) アルバム販売(10%) MV再生回数(30%) 投票(5%) On-Airスコア(10%) |
Mnet「M Countdown」 | アルバム販売(50%) オンライン投票(30%) 審査員票(10%) リアルタイムモバイル投票(10%) | 音源配信(50%) アルバム販売(15%) MV再生回数(10%) 投票(15%) 放送回数(10%) |
上の表は、自分から載せておいて恐縮ですが、情報サイトや書籍から粗く拾ってまとめた情報なので、だいたいで捉えてください。
同じ番組でも時期によって点数配分が変わったり、各要素の定義も異なりますので、正確な情報を知りたい方は番組HPなどで調べてくださいね。
わざわざ表にしてまでお伝えしたかったのは、“アルバム販売”“再生回数”などの複数の項目で点数が集計されること、さらにそれらの項目が放送局の方針や時代の変化によって異なるということです。
2000年代はアルバム販売(つまりCDの売上枚数)の比重が大きかったのが、2020年代は音源配信(つまり配信サイトでの再生回数)の比重が大きくなりました。
1位をとるための努力
番組によってはアーティストがどの要素で何点取ったかの内訳が発表されるので、それを見て1位を取るための戦略的な努力をすることになります。
例えば、“再生回数”がライバルよりも不利ならば、アーティストは“放送回数”の点数稼ぎを狙うでしょう。
“放送回数”はその放送局での直近の出演実績が問われるので、可能な限り多くの番組に出られるようスタッフとともに駆け回ります。
またファンも“アルバム販売”や“投票”などの他の項目で巻き返せるよう努力します。
ファンはカムバックのたびに献身的な努力をし、自分の応援しているグループを投票やスミン、CDの「積み」で、のし上げようとする。
有名グループ同士のカムバックがかぶりでもすれば、「カムバック戦争」と呼ばれるほど熾烈な応援合戦がファンのあいだで繰り広げられ、その期間にカムバックしていないグループのファンと同盟を結んで協力を仰ぐなど、その様相は文字通り、戦争である。
田中絵里奈『K-POPはなぜ世界を熱くするのか』 2021年 P66
晴れて1位をとったアーティストが壇上でスタッフやファンに厚くお礼を述べるのは、このような背景があるからでしょう。
ヒットの先にある大賞
アルバムがヒットして再生回数や売上枚数が高水準を維持すると、翌週、そのまた翌週と1位候補になり、音楽番組への出演期間が伸びていきます。
東方神起は 『HUG』『Rising Sun』『O -正・反・合』『MIROTIC』が3週連続でSBS「人気歌謡」の1位にあたる「ミュティズンソング」を獲得しました。
ちなみに4週連続で1位をとったアーティストの例はほとんどなく、現在ではトップアーティストによる1位の独占を防ぐため、1位の獲得を3週連続までと規定している放送局が多いです。
各週の1位を積み上げた先にあるのが年末の授賞式の「大賞」です。
授賞式もまた様々ありますが、有名なものは以下の通り。
名称 | 主催者 | 開始年 |
Golden Disc Awards (GDA) | 中央日報系 | 1986年 |
SBS歌謡大典 | SBS | 1997年 |
Mnet Asian Music Awards (MAMA) | Mnet系 | 1999年 |
Melon Music Awards (MMA) | Melon | 2009年 |
Asia Artist Awards (AAA) | STARNEWS | 2016年 |
授賞式ではその年に活躍したアーティストに新人賞や本賞など様々な賞が与えられますが、その中の最高位が大賞。
つまり大賞は年間の1位にあたります。※大賞の呼称は各音楽祭によって異なります。
ただし、必ずしも全ての音楽祭で授賞式や大賞があるとは限りません。年によって大賞を決定しない音楽祭もありますし、KBS歌謡祭やMBC歌謡大祭典のような、授賞式のないショー形式の著名な音楽祭もあります。
そのため上表はあくまで一例として捉えてくださいね。
特に有名で権威ある授賞式といえばMAMAとGolden Disc Awardsでしょう。
東方神起は5人時代に何度も大賞に輝きましたが、中でも2008年のMAMA(当時の名称はMKMF)を強く記憶しているファンは多いと思います。
そのとき壇上でチャンミンがこぼした涙や、受賞スピーチでユノが感極まって叫んだ「愛してるカシオペア!」という言葉が、この賞の重さを物語っていますね。(ジェジュンは隣で静かにはにかんでいました)
原始的だったランキング
話を1位の決定方式に戻しましょう。
アーティストがアルバム販売、再生回数、放送回数、投票など複数の要素で競い合うことは先に述べました。
このような点数システムの歴史はそれなりに長く、アイドルファン文化に影響を与えながら発展してきた経緯があります。
インターネットが未発達だった1990年代のファンたちは、アルバムの発売日を電話やパソコン通信で知り、レコード店に並んで買っていました。
ファンが「推し」のアルバム販売数を増やすためにカセットテープやCDを幾つも購入する現象は、その頃から既にあったといわれています。
ただしファンたちがせっかくCDを積んでも、“アルバム販売”の点数根拠であるハントチャート(日本のオリコンチャートのような指標)は、たびたび数字の不自然さが指摘され、信頼性が疑われてきました。
1990年代、ファンが好きな歌手の音楽番組での順位とアルバム販売数を上げようとする努力は涙ぐましいものだった。できるかどうか、どのように進んでいるのかもよく分からないまま、誠意と努力を続けたのだ。
ファンの多大な努力や誠意とは関係なく、1990年代のアルバム販売数はどんぶり勘定で行われ、順位決めも公正性を完璧に確保するのが難しかったという点で、ファンは欺かれていた側面があった。
カン・ヘギョン『アイドル順位の系譜学 ―客観性論議からお客様の遊戯まで』P76(イ・ドンヨン『アイドル H.O.T.から少女時代まで、アイドル文化報告書』2011年 収録)当サイト訳
アナログだったのは“アルバム販売”だけではありません。
“投票”は、番組放送中にアーティストがパフォーマンスを行うほんの数分間の間に視聴者が電話で投票でき、それがリアルタイムで集計されて結果が発表される仕組み。
トップアイドルは投票が始まると、電話が集中してたちまち数千票、数万票を獲得することもあったといいます。
また“放送回数”を増やすためにファンたちが放送局にはがきを送るなどの努力も行われていました。
発展する点数システムとファン文化
2000年代に入るとデジタル化が進み、点数システムの透明性が増したことで1位はより戦略的に狙えるものとなりました。
またインターネットが普及したことで、ファンたちはポータルサイトでコミュニティページを立ち上げ(通称“ファンカフェ”)、より組織的に応援するようになりました。
余談ですが東方神起も大小さまざまなファンカフェがあり、カシオペアの応援活動の中心となってきました。
ファンカフェはジェジュンとファンの歴史を理解する上で非常に重要かつ奥が深いので、私自身まだまだ理解の途上ですが、機会があればいつか記事にしたいと思っています。
このように、1990年代は原始的だった点数争いに、2000年代以降はファンの組織力と機動力が加わったことで、音楽番組で1位を目指すアーティストとそれを熱烈に後押しする“ファンダム”という、現代のK-POPの形が出来上がりました。
公正性の問題
ところで、音楽番組や授賞式は真の人気順位を表しているのでしょうか?
これらのランキングは一義的にエンターテインメントであり公正性は担保されていません。
先にチャートの信頼性について触れましたが、1位の決定過程を外部が審査するわけではないので、番組側が視聴者に知らせずに点数を操作することもおそらく可能です。
そもそも、3週連続で1位を取ったらランキングから除外されるというルール自体が、大人の事情ならぬ音楽業界の事情、つまり多くのアーティストを宣伝したいニーズの表れといえるでしょう。
そうでなければBTSのような絶対的な強者が延々と1位を取り続けてしまいますからね。
実際、ランキングの公正性が欠ける、または音楽のジャンルが偏りすぎるなどの問題点を理由に、ランキング制度が一時的に廃止された例もあります。
実際に2001年にはKBS「ミュージックバンク」が、2003年にはSBS「人気歌謡」が番組の順位選定制度を廃止し、2005年にはMBC「音楽キャンプ」が廃止され「ショー!音楽中心」が最初から順位をつけない番組として新設された。
一方、この時期は事実上アイドルグループの斜陽期で順位競争自体があまり意味のない時期でもあった。
カン・ヘギョン『アイドル順位の系譜学 ―客観性論議からお客様の遊戯まで』P83(イ・ドンヨン『アイドル H.O.T.から少女時代まで、アイドル文化報告書』2011年 収録)当サイト訳
ここで私が注目したいのは、公正性が問題になることはあっても、順位を付けるという行為自体は否定されていない点です。
競争や順位付けというゲームは、一体なぜこれほど支持され続けているのでしょうか?
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1位を獲るための努力
アーチストとファンの双方の努力
ひとりでそのアーチストを秘めて応援するのと自分のCD1枚が投票1票が力になってるとしたら、それは1ファンの人生の1ページとして迄心に刻まれる。そんな熱量がKpopアーチストを支えてきたんですね。