2007年6月18日
東方神起の2ndライブツアー「Five in the Black」のファイナル公演。6月18日と6月19日の二日間、日本武道館で開催された。
日本武道館は、合同コンサートとしては2006年4月にM-net Japan開局記念コンサートに出場したことがあるが、単独コンサートとしては当公演が初めてである。
セットリスト
1. ZION
2. Choosey Lover
3. The Way U Are
4. Step by Step
5. 約束
6. Begin
7. DEAD END
8. Rising Sun
9. HUG(アカペラ Ver.)
10. Whatever They Say (アカペラ Ver.) (武道館公演のみ)
11. I’ll Be There
12. 明日は来るから
13. My Destiny
14. miss you
15. Somebody To Love
16. No Pain No Gain
17. High Time
18. “O” -正・反・合
19. Sky
20. Lovin’ you
21. Hello again
22. PROUD(武道館公演のみ)
日本でのコンサート活動
日本デビューからの約2年間、東方神起は次のようなコンサートを数多く経験してきた。
・単独ライブツアー
・CDの購入者特典イベント
・エイベックスの音楽イベント(a-nation、Rhythm Nation)
・地方放送局やラジオ局の音楽イベント
・大学の学園祭
これらのライブの形態は様々だ。まず、エイベックスの音楽イベントは比較的大規模である。
一方で地方放送局やラジオ局のイベントは商業施設のイベントスペースで開催されることが多く、例えばショッピングモールの中庭に設置された特設ステージでパフォーマンスを行うこともあった。
単独コンサートは、1stライブツアーは数百人規模のライブハウスから千数百人程度のホールで、2ndライブツアーでは千人から3千人程度のホールで実施してきた。
韓国での単独コンサートの実績と比較すると、例えば「Rising Sun」や「O」のコンサートでは国内最大級の室内会場(収容人数1万~1万5千人程度)を満員にしてきたが、日本で1万人を超える観客を集めたのは、2006年秋に開催したBigeastの1stファンクラブイベントの一度きりである。
そんな東方神起にとって、1万人から1万5千人のキャパを持つ日本武道館は日本活動以来最大の会場であり、音楽の聖地という意味合いもあって大一番の舞台であった。
武道館のステージ構造
「Five in the Black」ツアーで巡ってきた各地のホールとの違いは、客席の数や大きさだけではない。
武道館はステージに通路(張り出し)が設置され、正面に大きく伸びている。大きな空間の中、一階席の客席の目の前まで5人が動いていくことができ、観客まで手が届きそうな距離に舞台が組まれていた。
センターステージも非常に高く上がり、二階席の観客までもが近くに迫って見える。
――武道館という会場は、お客さんに包まれてる感じだってよく聞くけど、実際はどう感じた?
「確かに包まれてる感じでした。武道館は広い会場ではあるんですけど、ステージに立つとお客さんとの距離が思ったよりも近いんです。それで僕たちももっと熱くなりましたね。」(チャンミン)
ソニー・マガジンズ『SHINE 2ND ARTIST BOOK FROM TOHOSHINKI』2007年
二つのサプライズ
この日のステージには、特別さを演出するいくつもの仕掛けが施された。まずはコンサートの中盤、『HUG』に続く二連続のアカペラだ。
「今日はいつもより特別なステージじゃないですか。だからもう一曲……」というユンホの言葉を受けて、「Whatever they say」を韓国語のアカペラで披露する。それはメンバーからファンへのサプライズなプレゼントだった。
ソニー・マガジンズ『SHINE 2ND ARTIST BOOK FROM TOHOSHINKI』2007年
『Whatever They Say』は東方神起が初来日するよりも前、韓国の2ndシングル『The Way U Are』で発表した曲である。
デビュー1年目から歌い込んでいるメロディ、しかもメンバー同士の感覚だけで奏でるアカペラとあって、この曲を歌う5人は、自身だけで会場を操ることができた。
例えばそれは、ジェジュンの歌い終わりのリードに現れる。
最後のメロディを歌いながら観客を見渡したジェジュンは、急に嬉しさがこみ上げてしまったのか、長いタメをとると照れたように一息つき、笑顔で曲を締めくくるのだ。
続いて、しっとりとしたバラード曲が続くブロックでは観客からメンバーへのサプライズがあった。
「明日は来るから」のイントロが流れ出すと、これまで点灯していた赤のペンライトから白のサイリュームへと会場全体が一気に切り替わる。まばゆいばかりのステージと、全体を白く照らす客席が一体となった瞬間だ。
Bigeast会報 Vol.5
このサプライズではメンバーらを驚かせることに成功。“遥かな宇宙の片隅”を歌う『明日は来るから』の世界観ともマッチし、白いペンライトが夜空のような幻想的な雰囲気を作り上げた。
ダブルアンコール『PROUD』
アンコールの『Hello again』でコンサートは一旦締めくくられたが、観客の東方神起コールに応え、5人は再びステージに現れた。
この時最後に歌った『PROUD』は、武道館ライブの象徴としてファンに強く記憶されることとなる。
東方神起にとって武道館ライブはどのような意味があったのか、それは彼ら自身の言葉が教えてくれる。
感激しました。ライブハウスがあって、ホールがあって、それを乗り越えたところに武道館があったので、あの場所でライブができたのは本当にうれしかった。(ジェジュン)
雑誌「WHAT’s IN?」2009年9月号
初めての武道館で希望を感じることができたんです。〈明日は来るから〉でお客さんが白いペンライトを振ってくれたのを見たとき、僕の中で何かが変わったんですよ。最後に〈PROUD〉を歌ったんですけど、歌っているのに僕の頭の中は色んなことが巡っていて……。
(中略)走馬灯のように。六本木ヒルズのステージも思い出したし、本当にいろんな場面を思い出しました。(ジュンス)
雑誌「WHAT’s IN?」2009年9月号
六本木ヒルズのステージとは、2005年4月の日本で初めてのライブのことだろう。デビューシングル『Stay With Me Tonight』のプロモーションのためにラジオ局主催のイベントに出場し、野外ステージで数十人の前で歌ったときのことだ。
そうした過去の様々な出来事を思い起こしたメンバーたちは、『PROUD』を歌いながら目に涙を浮かべた。
ジュンスとユチョンが泣いているのを見て、僕も……。でも本当にうれしかったんです。武道館に立てて。(中略)日本に来てからの生活のことを思い出したり、ちっちゃいステージから初めてここまでこれたんだと思ったとき、いろんな感情が胸にこみ上げてきましたね。(ユンホ)
ソニー・マガジンズ『SHINE 2ND ARTIST BOOK FROM TOHOSHINKI』2007年
彼らが思い起こした日々、すなわち約2年間の日本活動とはどのようなものだったのか。
当時の心境をジェジュンは素直に打ち明けている。
正直言うと挫折しそうになったことはあります。06年の年末に韓国で、音楽賞を全部取る“グランドスラム”を達成したんですが、その次の日に日本に戻ってきてやったイベントでは僕らのことを知らない人ばかり。ステージといっても段差もないところで、マイクも有線で、前の日に国中から祝福された曲(『“O”-正・反・合』)を歌っているのに「こんなにも盛り上がらないのか」と。
あまりのギャップに気持ちが混乱して、つらくて、「もうダメかも…」と思いました。(ジェジュン)
雑誌「日経エンタテインメント!」2009年4月号
――韓国で東方神起はスーパースターなのに、日本に来たら新人グループ。その状況については哀しく思わなかった?
「最初はありましたね、正直にいうと。韓国でトップ・スターになって、日本に来たわけじゃないですか。だから、日本に行ったらすぐに売れる、そういう気持ちがあったんです。日本以外のほかの国でも1位を獲ったこともあったので、日本でも売れるっていう自信は正直ありました。でもいろんな事情だったり、言葉の問題もあって、実際にはうまくいかなくて……。同じ音楽だけど感情の問題や文化の違いとかがあったり。そういうことがまったくわからなかったので複雑な思いもしました。」(ジェジュン)
ソニー・マガジンズ『SHINE 2ND ARTIST BOOK FROM TOHOSHINKI』2007年
彼らが感じていた葛藤をライブの来場者数や新人としての待遇面だけにフォーカスすると、いささか本質から逸れるかもしれない。
なぜなら、武道館ライブを迎えた時点でもなお東方神起はオリコンで首位を獲得したことがなかったし、テレビの全国放送、特にゴールデンタイムの番組への出演実績は少なかったからだ。
つまり、武道館ライブによってメンバーらの置かれている状況が劇的に変化したわけではない。にも関わらず、彼らがこの日に感じた嬉しさと感動の正体は何だったのか。
本当にその時、日本のファンの皆さんの愛を感じました。正直言えば、たまにはあきらめたくなったり、ここでやめようかって思ったり、大変な苦労をした思い出が沢山あったんですけど、武道館で最後の曲を歌ったときは、僕ができるまでは全部あげたかった。気持ちとして。(ジュンス)
DVD『History in Japan Vol.3』
(来日した)最初のころも曲の雰囲気に合わせて感情を入れて歌ってはいましたが、言葉の理解力が足りなかったので、表現できてなかった。
それが2年くらいたったころ、僕たちの歌を聴いている最中に泣いた人を初めて目の前で見て「ああ、やっと(日本人に)伝わった」と思った。本当にうれしかった。(ジェジュン)
雑誌「日経エンタテインメント!」2009年4月号
韓国や、日本に来る前のアジアでは勢いよく“成功”できたと言えると思うんです。でも日本ではまだそこまでは成功していない。地道にいちばん下からゆっくり上に昇っている感じがしてるんです。(ジェジュン)
ソニー・マガジンズ『SHINE 2ND ARTIST BOOK FROM TOHOSHINKI』2007年
『PROUD』を歌いながら、“包まれるような”武道館で涙は伝染していき、ジェジュン以外の多くのメンバーが声をつまらせてしまった。
ジェジュンはというと、むしろ歌いながら彼の心は自身を離れてメンバーと観客の方に飛んで行ってしまったのかもしれない。そう思わせるほど、ジェジュンの歌声と眼差しは愛情に満ちたものだった。
日本活動への思い
東方神起時代の日本活動は武道館ライブを境に大きく2つに分けられると当サイトは考えている。前半は2004年の来日から2年半の新人時代。後半は人気アーティストとしての実績を残した2010年4月までの3年間である。
東方神起は武道館ライブの後、しばらくしてテレビの人気番組に進出するようになり、オリコン首位、さらにアリーナツアーと加速度的にステップアップした。そして人気者となってから、日本活動への思いを問われれば、たびたび武道館ライブの思い出に触れた。
その後東方神起としての活動を離れてからも、日本活動はジェジュンの願いであり続けた。
JYJはエイべックスとの断絶により長らく日本活動の足がかりを失っていたが、日本活動の再開を目指し続け、2015年に日本で初のシングル『Wake Me Tonight』の発売にこぎつける。
そして時を同じくして「2014 JYJ JAPAN DOME TOUR〜一期一会〜」で来日し、記者会見に臨んだ。この時ジェジュンは、今まで生きてきた中で“一期一会”だと思った時について聞かれると、こう答えた。
難しいですね…僕の記憶の中だと、東方神起の時に、一番最初に武道館でライブができた瞬間じゃないかと思います。日本でお客さんの前で初めて歌ったのは野外の70人くらいのお客さんの前で歌ったのが初めてだと思いますけれど、そこから始まって武道館のステージに立てた時にはみんな泣いたよね。忘れられないですね。(ジェジュン)
記者会見「2014 JYJ JAPAN DOME TOUR〜一期一会〜」2014年11月17日
JYJの日本活動への試みは兵役によって一旦休止したが、ジェジュンは除隊後の2017年、単身日本に渡って活動を始める。
そして東方神起時代の武道館までの道のりを繰り返すように、今度は一人で新人として各地のイベントや放送局を回り、夢に向かって歩み始めるのだ。
DVD
「Five in the Black」ツアーの武道館ライブはこちらのDVDで発売されている。
3rdアルバム『T』のDVDが2枚付属しているバージョンには「2nd LIVE TOUR ~Five in the Black~ Special Edition」が収録されている。これは武道館ライブのダイジェスト映像に5人の副音声が入っているもので、5人がLIVE映像を見ながら盛り上がる楽しい鑑賞会となっている。
ジェジュンはハイテンションで「ジェ~ジュン!最高!」と叫んだり「オレ、ダンスうまい…」と自画自賛したりとお茶目さ全開だ。こちらも見逃せないDVDとしてチェックされたい。
『History in Japan Vol.3』にはメンバーらが武道館ライブを振り返るトークが収録されている。
書籍
『SHINE』は写真集とインタビューが一体になった公式アーティストブック。武道館ライブの少し後にインタビューが実施されており、メンバーたちのまだ余韻が冷めない率直な気持ちに迫っている。さらに武道館ライブ当日の取材レポートが収録され、直前のリハーサルや楽屋風景などを知ることができる。