2007年9月11日
韓国のドラマ『太王四神記』(たいおうしじんき)が2007年9月にMBCで放送開始し、東方神起が主題歌『千年恋歌』を担当した。このOSTは韓国語曲だが、後に日本語バージョンが制作され、東方神起の楽曲として発表された。
ヨン様主演の大型時代劇
『太王四神記』は、有史以前の神話と4世紀の高句麗を舞台とした時代劇。ペ・ヨンジュンが主人公タムドクを演じる。
ドラマの制作発表は2004年。約3年もの長期間にわたって準備・制作が行われたこと、また韓国のドラマとしては異例の430億ウォンという巨額の制作費がかけられたことから、放送開始前から注目を集めていた。
韓国での放送が開始されると、毎回30%を超える高視聴率を記録。同時期で最も人気を博したドラマとなった。
ヨン様は日本でも人気だと思いますが、「冬のソナタ」の時とは違ってこのドラマをみると、これまでのイメージとは違った印象で、あらためて好きになると思いますよ。(ジェジュン)
雑誌「月刊アピーリング」2008年4月24日発行
このドラマで韓国の若い子たちがヨン様にハマったんですよ。(ユチョン)
雑誌「WHAT’s IN?」リリースインタビュー(『TOHOSHINKI Fantasy★Star 04-09』収録)
ドラマを見れば莫大なコストがかけられたのは一目瞭然で、古代の宮殿や城市を再現した大規模なセット、神話の世界を再現したCG、砂漠での騎馬戦など、迫力に満ちた映像が展開される。
ダイナミックな歴史絵巻
ドラマのタイトルになっている”太王”とは、4世紀に高句麗の王子として生まれ、やがて王に即位し高句麗の領土を拡大していく主人公タムドクのこと。歴史上に実在する“広開土王”(日本では”好太王”と呼ばれる)がモデルとなっている。
“四神”とは、高句麗よりさらに数千年前に存在した神話上の4つの動物神、青龍・白虎・玄武・朱雀。この神話は完全にフィクションである。
『太王四神記』は、高句麗の時代に太古の神々が蘇り、神話で予言された運命の王とともに広大な帝国を築いていくという、史実とフィクションを織り交ぜたドラマ。
ドラマはまず神話の世界から描かれ、太古の神々が愛を成就できずに怨念を抱え、運命の王を待ち望んだまま眠りにつく。
次に、舞台が数千年後に移ると、高句麗の王子タムドクが、権謀術数が渦巻く宮廷で、多くの政敵に命を狙われながら懸命に生き抜く様子が描かれる。
タムドクが運命の王となる兆候を現し始めると、眠っていた太古の神々が次第に目覚め、人々を翻弄するようになる。
そしてタムドクの心の拠り所であった女性との恋は、目覚め始めた神々の力によって、ある時は歯車が狂うことで憎しみへと変わり、またある時は導かれるように巡り合う。
このように波乱万丈の物語を展開しながら、ドラマのエンディングで流れるのが『千年恋歌』だ。
久石譲氏が手がけるOST
『太王四神記』のOSTは、『千年恋歌』も含めて全て久石譲氏がプロデュースしている。
OST全体に映画のような独特のスケール感が通底しているため、久石氏が手がけたと聞けば納得する視聴者も多いことだろう。
作曲は有名な久石譲さん。メロディだけでもキレイだけど、ボーカルとハーモニーをつけたことでより美しくなったよね。(ジェジュン)
フリーマガジン「VIVO」Vol.3 2008年6月号
僕たちは久石譲さんにお会いしたことはないのですが、ジブリ作品をはじめとても有名な方ですし、この歌を歌うことができてとても光栄に思っています。(チャンミン)
雑誌「月刊アピーリング」2008年4月24日発行
『千年恋歌』には、生まれ変わりや輪廻転生、千年の時を超えた愛という壮大なイメージが込められている。
ドラマのディレクターさんが(韓国語の)歌詞を書いているので、ドラマの内容と雰囲気が主題歌ととてもリンクしてます。(チャンミン)
包み込むような大きな愛を持ったバラード曲なので、その雰囲気を感じてもらいたいですね。(ユチョン)
雑誌「WHAT’s IN?」リリースインタビュー(『TOHOSHINKI Fantasy★Star 04-09』収録)
日本企業の投資
『太王四神記』にヨン様、久石譲氏、東方神起といった日本で知名度のある面々が起用されたのは偶然ではない。なぜなら同ドラマは制作段階からエイベックスが投資していたからである。
ちょうどこの時期、日本のエンターテインメント業界は韓国ドラマに投資し始めていた。その背景をたどっていくと、日韓の興味深い歴史が見えてくる。
日韓共同宣言とその影響
韓国ではかつて、自国文化の保護と日本統治によって生じた国民感情への配慮から、日本の歌謡曲・映画・テレビドラマ・漫画などの大衆文化の流入が法的に制限されていた。
その制限が緩和され始めたのは、親日的な政策をとる金大中大統領の頃からである。
1998年、金大中大統領と小渕恵三首相が日韓共同宣言を発表すると、両国は経済・産業・文化など多くの分野で相互協力を推し進めることとなった。
その一環として、韓国ではそれまで制限されていた日本の大衆文化が段階的に開放されることとなった。具体的にどのように開放されていったのか、以下ほんの一例ではあるが、時系列で見てみよう。
1998年、日本の漫画が解禁。
1999年、日本のアーティストの来韓公演が解禁。
2000年、日本の劇場アニメ・ゲームソフトが解禁。 日本のスポーツ・ドキュメンタリー・報道番組の放送が解禁。
2004年、日本の映画が全面的に解禁。日本のレコード・CDの販売が解禁。
この間、日韓の文化交流史において忘れられない出来事があったことも書き添えておこう。2002年には日韓ワールドカップが開催され、2003年には韓国のドラマ『冬のソナタ』が日本で大ヒットした。
日本の大衆文化の受け入れが進むことで、韓国市場の可能性に目を付けた多くの日本企業があった。その一つがエイベックスである。
エイベックスの野心
1987年に創業したエイベックスは、1990年代に日本の音楽業界をリードする存在へと成長し、大企業としての安定・変革のフェーズに入った。
同時に事業の多角化とアジア進出に乗り出し、1990年代後半には香港と台湾に子会社を設立し事業を展開、1999年には証券取引所への上場を果たした。
韓国で日本の大衆文化が開放され始めたのは、エイベックスがアジア市場に目を向けていたちょうどその時期にあたる。
エイベックスがSMエンターテインメント(以下“SM”と表記する)と初めてライセンス契約を締結したのは2000年のこと。さらに、2004年についに韓国での日本の音楽CDの販売が解禁されると、SMに資本参加し大株主となった。
2005年に『太王四神記』への投資を決めたのは、『冬のソナタ』に始まる韓流ブームを受け、韓国ドラマのアジア市場における価値に目を付けたからに他ならない。
2003年の『冬のソナタ』の日本版権価格は4億~5億ウォンだったが、最近の『新入社員』の呼び値は20億ウォンとも言われている。韓流に乗って版権価格が急騰すると、日本はいっそのこと製作段階から投資し、収益を山分けする方向へと旋回したもの。日本の立場からすれば、第3国への販売にも参加できるほか、ドラマの挿入曲や俳優などを日本の都合に合わせ、事前調整できるメリットもある。
Chosun Online | 朝鮮日報-韓国ドラマ制作に日本資本参加が活発
韓国のドラマ制作者の側からしても、日本から投資を呼び込むことは重要事項であった。
『太王四神記』は制作費が莫大なため、国内だけで費用を調達することは困難だ。海外から相当部分を調達せざるを得ない。(中略)日本市場でトップクラスの商品価値を持っているペ・ヨンジュンの合流は200億ウォンに達する制作費を調達しなければならない制作サイドにとって大きな弾みとなる。
Chosun Online | 朝鮮日報-『太王四神記』ヨン様主演決定で投資誘致に追い風
『太王四神記』のOSTはエイベックスの主導で制作された。CDのクレジットを見ると、久石譲氏のプロデュースから演奏・収録、CDの製作までが日本で行われ、エイベックスから発売されていることが分かる。
東方神起の起用についても、エイベックスの意向であろう。
東方神起は過去にも韓国ドラマのOSTを歌ったことがあるが(例えば『インサ』や『ハルダル』)、それらはSMを通じた仕事であった。この点が、『千年恋歌』との違いである。
SMエンターテインメントの台頭
SMの設立は、エイベックスの創業より2年後の1989年。SMの歩みはエイベックスのそれとも類似する点が多い。
H.O.T.や神話などのアイドルグループを国内市場でヒットさせることで、SMは韓国芸能界の大手となり、1998年頃からは海外市場を見据えた動きを見せ始めた。そして2000年には韓国の証券取引所への上場を果たした。
折しも1998年の日韓共同宣言以降、日本企業の目も韓国市場に向き始めていた。この時流に乗って、SMは2000年にエイベックスとライセンス契約を締結すると、2001年にはBoAを日本でヒットさせることに成功した。
BoAの成功事例に基づき、SMが描く青写真とは、こうだ。アーティストを育成し日本に送り出す試みを続けながら、中国や台湾を始めとするアジア圏、さらには米国市場にも進出すること。
日本市場へ挑むSMと、韓国市場に参入するエイベックス。高句麗時代から千年以上が経った現代のアジアで、両社は勢力争いの主人公たちだったと言えるかもしれない。
そんな両社の戦略のカギとなったのが東方神起であった。
東方神起の歩み
『千年恋歌』を歌うことになった東方神起は、ドラマはまだ見ていなかったものの、歌詞やメロディなどからしっかりとイメージを持って収録に取り組んだ。
アレンジだけでも感情を込めやすい曲なんですよ(ジェジュン)
最初のストリングスだけでも、この歌詞の雰囲気ってつかみやすいので(ジュンス)
逆に歌詞の内容を理解しすぎると感情が入りすぎて、やりすぎになってしまうような曲なんですよ。その加減が難しい曲ですね(ジェジュン)
雑誌「B-PASS」2008年6月号
メンバーらのコメントはいたって純粋で、いつものように音楽的向上心を持って制作に打ち込んでいたことが分かる。
SMやエイベックスが臨むアジア市場の攻防において、東方神起もキーパーソンの一役と言えるのだが、本人たちのコメントにそんな気負った様子は見られない。
だが、これも嵐の前の静けさだったかもしれない。東方神起が日本でブレイクし、新たな韓流ブームを起こす台風の目になるのはもう1年ほど後のことだからだ。
試聴 (Apple Music)
CD
雑誌
『千年恋歌』は日本語版が東方神起のCDでリリースされた際にインタビューが行われている。当記事ではメンバーらが韓国語バージョンと共通して語っていると思われるコメントについて参照した。